信長・秀吉時代の外交と防衛を考える(2)

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はじめに

 

 M様、ありがとうございました。司祭を現地人から採用したのは日本だけだったというのは初めて知りました。確かに欧州列国の歴史は、我が国の戦国時代以上にすさまじい歴史の連続だったと実感します。それらの経験を通して、したたかな外交や軍事戦略が生まれ、発展してきました。 

 

日本でも戦国時代には山本勘助や黒田官兵衛など優れた軍師が出現したり、「甲州流」とか「真田流」などさまざまな兵法も発達しました。しかし、江戸時代の平安の間に廃(すた)れてしまいました。

 

そして、明治以降の先人たちの想像を絶する努力にもかかわらず、経験不足から来る“知恵”の欠如が、激動の昭和時代に至る大きな要因ではなかったかと考えております。その付近は、いずれ詳しく振り返りたいと思います。

 

教科書に書かれていない“日本人奴隷”

 

秀吉がキリスト教布教を禁ずる理由の1つとなった“日本人奴隷”については、なぜか教科書などでほとんど触れられていません。調べてみると、あの時代のキリスト教徒たる欧州人が全世界で奴隷交易として人身売買を行なっていたのは事実だったようです。

 

日本人に対する扱いもけっして例外ではなく、奇遇にも“欧州に最初に辿り着いた日本人”は奴隷たちだったのです。その証拠として、ポルトガルの教会の記録に「ポルトガル人が多数の日本人を奴隷として本国に連れ帰った」との記述(1555年)や、国王セバスティアン1世が「カトリック教会への改宗に悪影響が出ることを懸念して、日本人の奴隷交易の中止を命令した」との記録(1571年)があります。また「天正遣欧少年使節」(1582年)の少年たちが各地で日本人奴隷を見かけたとの記録も残っています。

 

しかし、その数は定かではありません。最大50万人だったとの記述がある一方で、実際は1万人前後だったとする説もあります。それでも、北朝鮮による拉致被害者数などと比較にならないほど途方もない数の日本人が奴隷として国外に連れ去られたのでした。宣教師の処刑や信者に対する弾圧などは語り伝えられていますが、このような歴史的事実も知っておかねばならないと思うのです。

 

秀吉の積極的外交と軍事行動

 

 秀吉は、九州平定するや、対馬の宗氏に朝鮮服属の交渉役を命じ(1587年)、島津氏には琉球の入貢(にゅうこう)を命じました(翌88年)。

 

外交的には、前述の「バテレン追放令」(87年)を発布した後、ポルトガル領のインド副王に対して「近く明国を制服する。貴国と近づくので交誼を深めたい。我が国は神国なのでバテレンの布教は禁止するが、商人の往来は許す」旨の親書を送る一方で、スペイン領のフィリピン総督には「高麗人と琉球はすでに予に帰服した。明国も制服しようとしている。フィリピンとは未だ親好がないが、この地を制服したい。予に服従すべき時だ」と服従要求の書簡を出しています(91年)。これにより、フィリピン提督は真剣に怯え、マニラに戒厳令を布き、スペイン国王に援軍を要請するなど非常事態を宣言したようです。

 

このようななか、「朝鮮出兵」が始まりました。「文禄の役」(1592年5月〜93年7月、総勢15万9千人)です。日本軍は、釜山に上陸し、朝鮮半島を縦走、現在の北朝鮮と中国・ロシアの国境付近まで兵を進めました。戦いには李王朝の朝鮮軍に加え、明軍も参戦し、兵糧が尽きたこともあって1年あまりで撤退しました。

 

その後、日本と明は講和交渉に入りますが、秀吉は、再び、フィリピン提督に「予が言を軽視すべからず」とさらに激しい書簡を送るとともに、高山(こうざん)国(台湾)にも書簡を送り、日本への服属を求めました。

 

1596年10月、スペイン船サン=フェリペ号が土佐に漂着したのをきっかけに、「布教は侵略の手段」との“手口”を見破った秀吉は、国内の宣教師や信徒を長崎で処刑しました(「二十六聖人殉教」と言われます)。

 

そして「慶長の役」(1597年1月〜98年12月、総勢14万2千人)といわれる2度目の「朝鮮出兵」が始まります。今回は、当初から明の反撃を受けて朝鮮南部から先に進むことができないまま、秀吉が死去(98年)してしまい、撤兵して終結しました。計画していた台湾出兵もなされませんでした。

 

「なぜ秀吉は朝鮮出兵したか?」については諸説あり、今もって“歴史の謎”として論戦が続いているようですが、すべては、スペインやポルトガルの日本制服計画を牽制し、抑止するための手段だったことは間違いないと考えます。そして、失敗したとはいえ「朝鮮出兵」は、当時、“世界最強”を自負するスペインの心胆を寒からしめる効果があったと考えるのが妥当ではないでしょうか。

 

これを裏付けるかのように、前述のフロイスは、『日本史』の中で、最初は持ち上げた秀吉を途中から罵詈雑言でこき下ろし、本音をむき出しにしております。

 

晩年の秀吉は、その不可解な行動から“暗愚”だったことが“歴史の常識”になっているようですが、少なくとも外交・防衛の“嗅覚”は正常だったと考えられ、結果として、我が国の植民地化を実力で阻止しました。改めて“歴史の常識”を見直す必要があるような気がしてなりません。

 

そして、江戸時代に入り、家康は秀吉の政策を発展するような格好で、ついには「鎖国」に至ります。それについては次回以降取り上げましょう。

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

 

(平成30年(2018年)9月27日配信)



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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