「治安維持」のための江戸時代の諸制度

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信長・秀吉・家康の外交・防衛(総括)

 

 信長の「抑止」、秀吉の「積極防衛」(戦略攻勢)、そして家康の「鎖国」は「専守防衛」と共通点があることから、「国防」という観点に立てば、我が国は、戦後時代から江戸時代にかけて、現代にも通ずる“3形態”を経験してしまいました。その結果として、「植民地化防止」という目的を達成したのでした。

 

再び「歴史にif」の視点で振り返りますと、@信長が出現する前の戦国時代に欧州人が我が国に到着していたら、A秀吉が弱腰だったら、そしてB家康が欧州人に寛容で「鎖国」政策を採用しなかったら・・・それ以降の我が国の歴史が大きく変わったことは容易に想像できるのではないでしょうか。

 

時代そして洋の東西を問わず、「国防」の成否は、その時々の状況を的確に判断し、最適な選択肢を選ぶ“決断力”がある為政者が存在するかどうかにかかっていると考えますが、我が国は、この時代にその“手本”となるような3偉人を輩出したのでした。

 

なお、誤解を怖れずに付け加えますと、秀吉や家康は欧州人から「皇帝」を意味する“Emperor” と呼ばれたとのことですが、天皇制に畏敬の念を保持していたことは明らかで、2人が共通して「わが邦は神国なり」と神道や天皇制を否定するキリスト教の本質を見破り、禁止に踏み切ったのでした。

 

少し状況は違いますが、最近、長年対立してきたバチカンと中国の暫定合意が話題になっています。中国は、「宗教信者は『愛国者』であれ!」とクギを刺し、国家体制の否定につながらないよう予防線を張っていますが、“一党独裁と宗教は共存するのか”今後の展開を注目しています。

 

江戸時代の“憲法”:「武家諸法度」

 

とにもかくにも、1世紀あまり続いた戦国時代、そして天下統一のための一連の戦いのあと、「島原の乱」など治安を揺るがす大事件を平定し、「鎖国」によってキリスト教徒や欧州勢力を追放して、ようやく「平和で穏やかな世の中」を手にしたのが江戸時代初期でした。

 

徳川政権も盤石になり、その最優先政策が“いかにして平和な世の中を長続きするか”、つまり「国内の治安維持」にありました。そのような“安定・内向き志向”は当時の人々の最大の願いであったと思われます。

 

徳川幕府は、“二度と戦乱の世に戻らないため”にさまざまな「仕組み」を考案しましたが、まず、江戸時代の“憲法”と言っても過言でない、13条からなる『武家諸法度(ぶけしょはっと)』を発令し、諸大名に厳しい統制を課しました(1615年)。

 

具体的には、城の無断修築の禁止(一国一城に限定)、500石以上の船の製造禁止、私闘の禁止、大名間の婚姻の許可制などまで細かく規定しました。そして最後の第13条では、現代の言葉で言えば「コンプライアンス」、つまり幕府が定めた法令の遵守を規定し、これに違反する大名は、領地の没収やお家とりつぶしなど厳しく処分しようとしました。

 

『武家諸法度』の第1条には「武芸や学問をたしなむこと」と明記されています。これに基づき、各藩は藩を運営するための優秀な人材の育成に精を出しました。各藩は藩校をつくり(全国で255校を数えました)武士の師弟などを教育したばかりか、寺子屋をつくり、藩民を等しく教育しました。この結果、江戸時代の識字率は当時世界最高水準だったことに加え、のちに「明治以降における日本の技術発展の基礎は江戸時代に作られていた」と解説されるように、“物づくり技術”も発達しました。

 

世界に例を見ない「参勤交代」

 

有名な「参勤交代」も『武家諸法度』の第2条に明記されています。「参勤交代」の表向きの狙いは、江戸に何かあった時にはせ参じて来る、言い換えれば、「戦略機動訓練」を平時から実施することにありました。

 

しかし実際には、“謀反防止”の「治安維持政策」でした。各大名に対して、江戸に屋敷を与え、人質として奥方や跡継ぎを住むことを義務づけ、大名ごと、西と東にわけて1年おき(江戸近郊は半年に1度、対馬藩は3年に1度、松前藩は6年に1度)に領地と江戸を往復させました。万が一どこかで謀反が起きたとしても、大名の半分は江戸に所在しているので迅速な対処が可能だったのです。また、一度に大量の物資を運ぶことへの警戒処置として、牛車や荷車の使用も禁止しました。

 

このようなダイナミックな“従属制度”は世界に例がなく、実に260年も続きます。各大名は江戸と地元で二重に費用がかかるし、往復に出費がかさみます。その上、幕府は、江戸城の整備や江戸の建設などを分担させ、財政を圧迫しました。

 

一方、「参勤交代」は、5街道を含むインフラの整備、宿場町の発達、さらに流通ネットワークの充実など、国内の経済発展のためのプラス効果もありました。

 

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

 

(平成30年(2018年)10月18日配信)



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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