長く続いた“太平の世”

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はじめに

 

 M様 Emperorと王の違いに関するご丁寧な指摘、ありがとうございました。言われるとおり、ドライな西欧列国が秀吉や家康を王ではなく、Emperorと呼称したところに、2人が当時の天皇を凌駕する「力」を保有していたという我が国の実情をよく認識していた証拠だと思います。他方、明が秀吉を「日本国王」に封じたことから、「慶長の役」が起きたのは必然だったとの指摘を対比しますと、我が国に対する東西の認識の差異がよく理解できるなど、“歴史の奥の深さ”に改めて思いが至ります。

 

さて、個人的な体験で申し訳ないですが、私は、高校時代は「日本史」が大嫌いでした。当時は日教組など先生方の組合活動全盛の時代で、母校の職員室には「○○打倒!」とか「△△粉砕!」のようなスローガンがあたり一面の壁に貼られていました。不幸にも、我がクラスの「日本史」担当は組合活動のリーダー格のような教師だったのです。

 

授業は暗く陰険で、徹頭徹尾、我が国の歴史の否定でした。私はまだ善悪の判断などできない年齢でしたが、本能的に「おかしい?」と気づきました。以来、「日本史」が大嫌いになりましたが、この教師が“反面教師”となり、「いつか日本史をしっかり学ぼう」と心に誓ったのでした。

 

それから20年以上の歳月が流れた40歳半ばを過ぎた頃、第1話で紹介したようなきっかけでこの“誓い”を思い出し、折に触れて歴史書をあさり、学び続けていますが、今になってみれば、こうして歴史のメルマガを発刊できるのもこの教師のお陰と感謝しております。

 

“世界最強”の資本主義国だった?!

 

その「日本史」の授業で、江戸時代については「封建制のもと士農工商の階級、つまり搾取と被搾取階級があり、経済的に停滞していた」と教えられたとおぼろげな記憶があります。

 

実際には、支配側にあった武士たちは、今様の言葉で言えば「民(たみ)ファースト」の精神で、自らは清貧でストイックな生活をしていたようですし、経済的にも(前号でも一部紹介しましたように)、貨幣経済や流通ネットワークが発達し、「当時の我が国は“世界最強の資本主義国”だった」と唱えている専門家もおります。

 

反面、江戸時代の各藩は半ば独立していた「国」だったにもかかわらず、『武家諸法度』によって領土争いなども禁止されていたので、隣接国に“備える”必要がなくなりました。その結果、軍事技術の発達や兵法の研究などはほとんどないまま時が過ぎてしまい、廃れてしまいました。

 

この時代の歴史に残る“争い”の代表は、歌舞伎などでも演じられる、有名な『忠臣蔵』の基になった「赤穂事件」でしょうから、本当に平穏な時代が続いたのでした。

 

「江戸時代」に出来上がった、我が国特有の思想・行動様式

 

このように、江戸時代だけを考えれば、太平の世が続き、人々は幸せだったと言えるでしょうが、「鎖国は日本人のアジア雄飛を阻み、大東亜戦争の遠因となった」(渡部昇一氏)のような評価がある一方で、「明治以降の和魂洋才の源は、16世紀のキリスト教禁止から鎖国にいたる外部遮断にあった」(歴史学者トインビー)との指摘もあるように、“世界”を認識しながらも交流を閉じ、西欧や周辺国と峻別して“独自性”を優先する「日本の文明」ともいうべき、我が国特有の思想や行動様式は、江戸時代の特異な環境下で出来上がったものでした。

 

「鎖国」の間に起こった欧米社会の「大変革」

 

我が国が200年以上の“太平の世”をむさぼっていた17世紀から19世紀にかけて、欧州では「宗教改革」から「宗教戦争」、そして封建的な「絶対王政」の時代を経て、自由や平等を求める「啓蒙思想」が興りました。

 

そしてこれらが欧州内の大きな流れとなって、「人権思想」や「市民権思想」が発達、その延長でイギリスの清教徒革命、フランス革命などの「市民革命」が起こり、やがては「アメリカの独立」へと続きます。

 

同時に、18世紀半ば、イギリスで「産業革命」が起こり、瞬く間に欧州列国や米国に広がり、工業社会の変革が進みました。これが「市民革命」と融合し、社会構造そのものが「大変革」を起こして“近代化”が一挙に進みます。これらの詳細は次号で取り上げますが、「鎖国」政策のため、我が国が欧米諸国の「大変革」の細部を知るのは幕末になってからでした。

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

 

(平成30年(2018年)10月25日配信)



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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