江戸中期以降の我が国周辺情勢と混乱(その1)

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ご挨拶

 

 つい最近、尊敬する元自衛官の大先輩から「新しい視点からの我が国の歴史探訪に感銘しました。日本史と世界史の関連もわかります。高校時代にこういう歴史を習いたかったです」とご丁重なお葉書をいただきました。おもはゆいですし、自己PRと批判されるかも知れませんが、素直に嬉しかったことと、どの世代も“違う歴史”を学んできたことを実感しましたので、勇気を出して紹介させていただきます。

 

 今回から江戸中期から末期の我が国周辺情勢を振り返ってみましょう。今回は、隣国「清」と幕末以降の我が国の歴史に重大な影響を与えたアメリカを取り上げます。

 

隣国「清」の興亡

 

まず、「清」の興亡です。江戸時代の始まりとほぼ同時期の1616年、女真(じょしん)族(満洲民族の前身)のヌルハチが満洲を平定して「後金(こうきん)国」を建国し、1636年、国号を「清」と改称しました。そして1644年に「明」が滅んだのを機に、首都を北京に遷都し、中国支配が始まりました。

 

 異民族の女真族の支配を圧倒的多数の漢民族がなぜ受け入れたか疑問が残りますが、「清」は武力をもって「明」の皇帝にとって代わるという姿勢をとらず、「明」を滅ぼした逆賊を討伐したという形をとって、科挙(かきょ)など「明」の制度をそのまま存続させたようです。つまり、あくまで「明」の“衣鉢(いはつ)を継ぐ”正当な中華帝国であることを前面に出したことが功を奏したのでした。

 

 その後、「清」は領土を拡張し続け、1689年には、ロシアとの間に「ネルチンスク条約」を結び、両国の国境を外満洲の北側、つまり黒竜江・外興安嶺(そとこうあんれい:ロシア名はスタノヴォイ山脈)に定めました。「ネルチンスク条約」は、中国が外国と対等に結んだ最初の近代的条約といわれ、ロシアにとっては、19世紀後半までこの正面の“南下”をはばまれることになりました。

 

「清」はまた台湾、北モンゴル、東トルキスタン、チベットに至る、現在の中国領土を超える“版図(はんと)”を持ち、18世紀に全盛時代を迎えました。

 

我が国にとって、(直接の脅威とならない程度の)“強い”「清」は、欧州諸国のアジア進出とロシアの“南下”防止の手段として、国防上はありがたい存在でした。しかし長くは続かず、幕末の混乱は、「清」の弱体化と連動して起こります(次回、取り上げます)。 

 

アメリカの独立・南北戦争

 

 これまで触れました欧州諸国の「大変革」や我が国を震撼させた「ペリー来航」と時代は前後しますが、アメリカの独立戦争や南北戦争にも触れておきましょう。

 

 アメリカの現在の隆盛があまりにも華々しいため、通常私たちは、1492年にコロンブスがアメリカ大陸を発見し、1620年、メイフラワー号で清教徒が移民した後、1776年にアメリカが独立するまでの約150年もの間、アメリカは、イギリスをはじめ、フランス、スペインの“植民地”だったことに気が行かない傾向にあります。

 

 もちろん、主にキリスト教徒の白人が移民したわけですから、他地域の植民地とはその扱いが違ったことはまちがいないと思われます。そのようななか、13州の合衆国が団結して植民地政策に抵抗して独立に向かったのは、厳しい課税、なかでもそのきっかけはすべての印刷物に印紙を貼って税を取り立てられた「印刷法」だったといわれています。

 

 アメリカらしく、独立当初から、共和主義を信奉して力強い国家建設を目指すグループと、民主主義を推進して大きな政治的平等性を目指すグループが存在し、現在の2大政党の原型が出来上がっていたようです。

 

1776年の独立宣言後、イギリスが反撃に出ました。フランス、のちにオランダやスペインがアメリカ側について参戦した結果、イギリスは単独で戦争を行なうことになりましたが、戦いは1783年まで続き、「パリ条約」でアメリカは独立を勝ち取りました。米国内には、あくまで国王に忠誠を誓う王党派の人々もおりましたが、イギリス敗北の後、その一部はカナダなどに移住しました。

 

戦いはこれで終わりませんでした。執拗なイギリスは、今度は米国内のインディアンをそそのかし、再び戦いを挑みました。この戦いは、「米英戦争」(1812〜14年)といわれています。同じ時期の欧州は「ナポレオン戦争」の真っ最中であり、イギリスは「米英戦争」に戦力を割く余裕がなかったこともあって、1814年、「ガン条約」で米英は講和し、戦争は終結しました。

 

この戦争で最も熾烈な戦いは、ボルチモア近郊の「マックヘンリー要塞の戦い」でした。この時の健闘を称える詩にメロデイがつけられたのが、アメリカの国歌「星条旗」になっています。

 

 かくして、完全に独立を果たしたアメリカでしたが、国内には、工業化を推進して奴隷制廃止を主張する北部と、農業中心で奴隷制存続を主張する南部の対立が残りました。南部の11州は合衆国を脱退し、「アメリカ連合国」を結成しました(アメリカに2つの国が存在した時期があったのです)。
「南北戦争」といわれるこの内戦は、1861年から65年まで4年も続き、南北合わせて20万人を越える戦死・戦傷者を出す、すさまじい戦いとなりました。最終的には北部側が勝利し、リンカーンの有名な奴隷廃止演説につながったのは承知の通りです。

 

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

(平成30年(2018年)11月15日配信)



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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