「ペリー来航」と開国(その1)

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はじめに(民族の差)

 

 だいぶ前ですが、インドのマンモハン・シン元蔵相が「かつて欧州から鉄砲が伝来した際、日本人はこれをマネして火縄銃を作った。中国人は鉄砲を見せられて値切りにかかり、インド人に至っては、横目でチラリと見るだけだった」と自省の念を込めて語ったとの記事を発見、興味深く読みました。

 

確かに、インドはほとんど抵抗せずに、イギリスの植民地になり(のちに大反乱はありました)、中国は抵抗しましたが、圧倒的な戦力差にもろくも破れ、我が国は結果として独立を維持しました。

 

欧州諸国が植民地を拡大して世界を支配した根本原因に、西洋人の“野心”や圧倒的な戦力差に加え、支配された側の要因としてそれぞれの民族が持つ“精神”なども加味しなければならないことは間違いないと考えます。今回からしばらく、幕末以降の我が国の“健闘”に焦点をあてて振り返りましょう。

 

我が国を震撼させた“「アヘン戦争」敗北のニュース”

 

第8話で江戸時代の学問の発達に触れましたが、医学から発達した蘭学は、杉田玄白、高野長英、渡辺崋山、緒方洪庵らの有能な人材を輩出するとともに、西洋事情の研究に寄与することとなりました。

 

出島を通じ、約1万冊の書籍を入手したといわれますが、当然ながら、ロシアやイギリスの出没の背景にある欧州諸国の世界制覇の“脅威”についても認識していたと推測されます。それを現実のものとして震撼させたのが、“清が「アヘン戦争」でイギリスに大敗し、半植民地になった”というショッキングなニュースでした。

 

当時の老中・水野忠邦は、周辺情勢の厳しさに危機感を持ち、「鎖国を強化するだけでは問題を解決しない」と決断、1842年、「無二念打払令」を撤廃し、薪水や食料の補給を認めることにした「薪水給与令」を発令しました。慌てふためく姿が目に見えるようです。

 

「ペリー来航」の真の目的?

 

「太平の眠りを覚ます上喜撰たった4杯で夜も眠れず」との狂歌があるように、幕末の大混乱を象徴する大事件が「ペリー来航」(1853年)だったことは疑いないでしょう。

 

まずアメリカ側から「ペリー艦隊」の派遣について振り返ってみましょう。独立戦争が一段落して50年あまり、「西へ」の衝動に駆られたアメリカは、大陸の西側の領土を拡張しつつ、メキシコと戦争してカリフォルニア、ネバタ、ユタなどを割譲させ、太平洋側に到達したのは1848年でした。

 

そして、「欧州諸国に負けじ」と蒸気船の開発・製造を含む海軍力の増強に努め、当時の海軍の4分の1に相当する艦船を「ペリー艦隊」としてアジアに派遣することを決意、1852年、艦隊は、フィルモア大統領以下の盛大な歓送セレモニーのなか、バージニア州のノーフォークを出港しました。1914年完成のパナマ運河はまだ使用できず、艦隊は大西洋を横断、喜望峰をまわり、インド洋を経て太平洋に進出、浦賀沖に到着するまで226日もの歳月が流れました。

 

 この大航海の究極の目的はどこにあったのでしょうか? 特に、日本に開国を迫った真の狙い(野望)はどこにあったのでしょうか?

 

歴史的には、「ペリー来航」の目的は「捕鯨船の物資補給」が定説になっています。確かに、「泳ぐ石油」といわれた鯨油は、19世紀、灯火用の油に加え、潤滑油や繊維加工などさまざまな用途で使用されました。捕鯨はアメリカの巨大産業に成長し、日本近海やアラスカ海域にも漁場が発見されていたため、捕鯨船は日本の周辺まで進出していました。

 

他方、「ペリー来航」の3年前の1850年、アブラハム・ゲスナーが瀝青(れきせい)といわれる天然アスファルトから灯火用オイルを精製する技術を開発し、この技術が原油の精製に応用され、やがて捕鯨は終焉を迎えることになります。当時のアメリカがこの近未来の技術的飛躍を知らないはずがありません。

 

 これらから、「日本開国は、捕鯨船の安全確保でなく、当時貿易相手国として最も富を生み続けていた支那(清)の市場をめぐるイギリスとの通商戦争を戦うために、イギリスより短い時間で支那にアクセスできる“太平洋ハイウェイ”(蒸気船航路)の安全を確保するのが狙いだった」との説があることを紹介しておきましょう。

 

こうして、イギリスの「南京条約」から遅れること2年の1844年、アメリカは、清との間に「望廈(ぼうか)条約」を結び、イギリス同様の特権を得ました。そして、再び来航したペリーが、我が国とも「日米和親条約」を締結(1854年)、さらに4年後の58年、下田総領事のハリスが「日米修好通商条約」を締結しました(細部は、次回取り上げます)。

 

歴史は皮肉です。太平洋そしてアジアへ進出する糸口を見つけたアメリカでしたが、第12話で紹介しましたように、1861年、「南北戦争」が勃発し、4年間も続くのです。出遅れたアメリカがハワイを併合しつつ、スペインと戦い、再びアジアに進出したのは19世紀末、ようやくフィリピンを植民地化したのでした(1898年)。

 

本メルマガでもいずれ紹介する予定ですが、のちの中国をめぐる「門戸開放」や「機会均等」などのキャンペーンは、「出遅れたくやしさ」の反映であろうと考えます。

 

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

(平成30年(2018年)11月29日配信)



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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