江戸幕府の滅亡(その3)

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時代の変化に追随できなかった「統治システム」

 

「尊皇攘夷」運動の「尊皇」はともかくも、「攘夷」は、まさに最近、我が国の労働人口不足が眼前に迫っていることを熟知しながら、外国人受け入れに拒否反応を示し、出入国管理法の改正反対を叫ぶ一部の人たちのように、現実を無視した“精神的な高まり”だったと個人的には考えます。

 

そこには、迫りくる“脅威”に関する具体的な情報量の差もありました。当然ながら幕閣の方が一般国民より正確な情報を持っており、「鎖国政策」の限界を知った上での決断だったことでしょう。

 

欧州諸国が世界制覇を目前にしていたこの時期、不平等条約の締結を許容しつつも、植民地にならず、曲がりなりにも独立維持を最優先したことは、江戸時代初期の「鎖国」と同様、歴史の中でもう少し評価されてもいいと考えます。

 

他方、“開国すればいい”という単純なものでなかったことも事実です。江戸幕府終焉の要因として、吉田松陰、坂本龍馬や西郷隆盛など、大河ドラマの主人公になる多くの幕末の志士たちが果たした役割は計り知れないものがありますが、江戸幕府は、開国を契機に表面化したさまざまな要因で足下から瓦解し、「桜田門外の変」からわずか7年で滅亡したのでした。国防を怠ったことを含め、時代の変化に「統治システム」が追随できなかったと考えるのが妥当でしょう。

 

最後に、「日米和親条約」も「日米修好通商条約」も、日本国の英語名が「The Empire of Japan」となっていた事実を紹介しておきます。「Empire」は「(皇帝が統治する)帝国」と訳します。我が国の場合、皇帝は天皇を意味し、だからこそ“勅許”が必要だったとも解釈できますが、我が国の正式な国名は、江戸時代から「日本帝国」となっていたのです。

 

「明治維新」との呼称はどうして生まれたか?

 

こうして、迫り来る外国の“脅威”の中で“我が国が独立を維持する”という難題は、明治の指導者たちにサイは投げられました。幕末から明治に至る「物語」は、これまで何度も小説の題材になり、大河ドラマにもなっています。そのせいもあって、日本人の多くは「明治維新」に何か憧れやロマンを感じているようにも見えます。

 

さて、この「明治維新」という呼称自体はどのようにして生まれ、定着したのでしょうか? 明治時代を振り返る前に、時代は少し前後しますが、「明治維新」という呼称について解明しておきたいと思います。

 

熾烈だった「戊辰戦争」が箱館戦争をもって終結(1869〔明治2〕年)し、国内統一を果たした新政府が最初に手がけた仕事は、「明治新政府が“正しい政府”であることを証明し、宣伝する」ことだったと言われています(こういう事実は大河ドラマには出てきません)。

 

そのため、「正史」の編纂に取りかかり、『復古記』(全150巻)、『復古外記』(全148巻)とまとめあげました。完成は、1889〔明治22〕年)でした。足かけ17年をかけたこの膨大な資料に加え、『大日本維新史料要綱』なども編纂しました。その力の入れようは尋常でなく、これらの史料は、学校教育などを通じて国民の間に“紛れもない事実”として定着し、近代史の基礎となりました。

 

「明治維新」という言葉自体も、“イメージ戦略”の一環として用いられたようです。「維新」とは「あらゆることを改めて一新されること」を意味し、水戸藩の藤田東湖が儒学書の『詩経』の一節を引用したのが最初と言われ、「明治維新になって世の中がよくなった」というニュアンスを含んでいるとされます。

 

 「正史」編纂においては、自らの正当性を証明しようとするあまり、“勝者が歴史を作る”ごとく、「旧体制たる徳川幕府」と「江戸時代」を否定することに注力したのは当然でした。

 

今年は「明治150年」の節目だったこともあり、近年、「明治維新」に関する歴史書などがブームになっています。NHKの大河ドラマ「西郷どん」もその一環だったと考えます。なかには、江戸時代を礼賛し、吉田松陰や西郷隆盛をテロリストとさえ呼ぶ新説(珍説)も含まれるなど、これまでの“定説”を覆す書籍が散見されます。

 

勇気を振り絞って読破すると、改めて「歴史の見方」は一様でなく、見方を変えれば「“語られる歴史”は180度違ってくる」ことがわかります。「歴史は物語であり、文学である」(歴史学者・岡田英弘氏)の言葉のごとく、確かに「歴史」は、「必然」と「偶然」(とも言える)の事象が織りなす「物語」であるような気がしてなりません。特に「明治維新」には、そのことを強く感じます。

 

今年最後の発信

 

 今年最後の発信となりますが、ようやく「明治維新」までたどり着きました。毎回お読みいただき、心より感謝申し上げます。

 

「明治維新」については、「公武合体」から「廃藩置県」に至る国内的な流れの細部は、歴史物語や大河ドラマにお任せして、本メルマガらしく「『明治維新』と諸外国の関わり」に焦点を絞り、振り返ってみようと考えております。どうぞご期待下さい。

 

新年は第2週から再開したいと思います。皆様、よいお年をお迎え下さい。来年またお会いしましょう。

 

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

(平成30年(2018年)12月27日配信)



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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