「明治維新」による国家の大改造(その5)

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日本近代化を支えた海底炭坑の島「軍艦島」

 

「明治維新による国家の大改造」を振り返っていますが、明治時代の近代化のスローガンだった「殖産興業」の細部についてはほとんど触れませんでした。そこで、一昨年9月、明治から昭和に至る「殖産興業」の代表例とも言うべき「軍艦島」(端島)を訪問する機会がありましたので、冒頭に紹介しておきましょう。

 

五島灘といわれる長崎湾の沖合に位置する「軍艦島」は、かつて“黒いダイヤ”といわれた石炭を1891(明治24)年より出炭開始、以来、国家のエネルギー源供給基地として発展してきました。当時の東京の約9倍の人口密度、世界初・世界最長の海底水道管、日本初の高層鉄筋アパートなど世界一や日本一の記録が10個もあり、現地に立つと、日本の近代化のために「軍艦島」がいかに重要だったか、よく理解できます。

 

「軍艦島」の名称は、島の外観が軍艦「土佐」に似ていることから、大正時代ごろから通称として使われてきたようです(1945年、米軍が本物の軍艦と間違えて魚雷を撃ち込んだとの噂話もあるぐらいです)。1974(昭和49)年の閉山にともない、島民は島を離れ、無人島になりましたが、2015年、「九州・山口の近代化産業遺産群」の一部として世界文化遺産に登録されました。

 

その前後に、韓国が「軍艦島は朝鮮人を強制労働させた施設だった」とアピールし、登録反対キャンペーンをぶち上げるための映画を作成し、話題になりました。ほかの炭鉱同様、確かに当時の労働は過酷だったと想像できますが、それはけっして朝鮮人や中国人にのみ強いられたものでなく、事実、事故などによる犠牲者は日本人が圧倒的に多かったとの記録が残っています。

 

「大日本帝国憲法」の制定

 

「明治維新による国家の大改造」はまだまだ語り尽くせませんが、「大日本帝国憲法」の制定を取り上げて終わりにしたいと思います。短期間で停止されたオスマン帝国憲法を除けば、アジア初の近代憲法といわれた「大日本帝国憲法」を制定することになった要因は大きく2つあったと考えます。

 

第1には、「自由民権運動」の一環として立法機関の設立要求やさまざまな憲法私案が執筆されたことなどから、政府もこの動きを無視できなくなったことです。

 

第2には、「不平等条約」改正に向け、近代国家の仲間入りするため、鹿鳴館を建て舞踏会を開くといった“欧化政策”を試みましたが、効果がなかったことです(教科書では「鹿鳴館時代」と教えられました)。岩倉具視などは、憲法を制定し、欧州並みの法治国家を目指す必要があることに早くから気がついていたようです。

 

こうしたなか、1876(明治9)年、明治天皇は「各国憲法を研究し、憲法草案を起草せよ」との勅語を発し、元老院は「憲法取調局」を設置、調査研究を開始しました。政府は、プロシア風の君主権の強い立憲制度を採用しようとし、1882(明治15)年3月、伊藤博文をヨーロッパに派遣し、主にプロシア憲法を調査させました。「普仏戦争」(1870年)でプロシアが勝利した後、ヨーロッパは「ビスマルクの平和」といわれる小康状態が続いていた頃でした。

 

翌83(明治16)年8月、1年半の調査を経て帰国した伊藤は、84年、宮中の「制度取調局」の議長となって憲法起草を極秘のうちに開始、85年には「内閣制度」を設置し、初代の内閣総理大臣に就任しました。88年には、皇室典範、憲法、議員法などの草案が完成、のべ38日間に及ぶ「憲法会議」が開催されました。明治天皇も一度も欠かすことなく出席されたようです。

 

同年、憲法草案審議のための「枢密院」が設置され、内閣総理大臣を黒田清隆に譲った伊藤が初代枢密院議長として草案の審議を実施しました(のちに「枢密院」は憲法によって天皇の最高諮問機関に位置づけられます)。

 

こうして、1889(明治22)年2月11日、ついに欽定(きんてい)憲法として「大日本帝国憲法」が公布されました。明治天皇が起草を命じてから13年、伊藤博文が中心となって起草を開始してから5年の歳月を要して完成をみたのです。約1週間で作ったといわれる現在の日本国憲法との違いをご理解いただくため、その経緯を少し詳しく説明しました。

 

なお、欽定憲法とは、“君主(天皇)によって制定された憲法”という意味ですが、「大日本帝国憲法」は、天皇の権限が極めて大きく、逆に国民の権利は制限されました。「軍隊の統帥権」のみが強調されます(実際に大正時代以降問題になります)が、帝国議会の立法、内閣の行政、裁判所の司法の3権も天皇の統治下にありました。また、宣戦、講和、条約締結なども天皇の大権に属しました。

 

それでも、当時から一部の勢力が画策したといわれる「天皇親政」とは違う、「天皇が自らの意志で国民に権利を与え、保護する」との“立憲主義の要諦”を目指した伊藤博文らの考えが憲法によって実現し、文明国共通の「立憲政体」が確立したのでした。「大日本帝国憲法」については、のちほど触れる機会があると考えますので、今回はこのくらいにしておきましょう。

 

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

(平成31年(2019年)2月14日配信)



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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