「日清戦争」の原因と結果(その1)

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はじめに

 

「戦争」を理解するには、“軍に関する諸制度”を意味する「兵制」(あるいは「軍制」)、“国家戦略”を意味する「国防方針」、軍人教育(人材育成)、戦術、兵器体系、それに実際の戦史なども踏み込んで考えないと、その本質がわからないものです。

 

戦後の歴史家や有識者の方々が“最も不得意とする”「軍事」ですが、元自衛官の私は、一応、軍事のプロの端くれにおりますので、少しずつ「軍事」について解説したいと考えております。ただ「戦史」にあまり深入りすることは避けて、それぞれの戦争が起きた背景やその結果が、その後の歴史にどのような影響を与えたかなどを主に考察してみたいと考えます。

 

「統帥権の独立」

 

今回は、「徴兵制」(1873(明治6)年公布)によって健軍された「兵制」に少し触れておきましょう。

 

明治初期の軍の「統帥機構」は、“天皇が自ら採決する”「天皇親裁」ではなく、太政官政府直轄でした。それが太政官から分離独立したのは「参謀本部条例」(1878(明治11)年)でした。そして、「大日本帝国憲法」(1889(明治22)年公布)第11条の有名な「天皇は陸海軍を統帥す」によって“天皇直轄”として不動のものとなり、「統帥権の独立」が決定しました。

 

ここで言う「統帥権」とは、「軍隊の作戦用兵を決定する最高指揮権」のことで、戦後は「統帥権」と言わず、「最高の指揮監督権」という名称で、自衛隊法第7条によって内閣総理大臣が有しています。

 

「統帥権の独立」の本来の狙いは、明治11年に発生した「竹橋騒動」(処遇改善等を狙いに近衛兵が暴徒化した事件)のように、後年の問題とは逆に、“軍の政治関与を防止する”ことにあったと言われます。「竹橋騒動」の後、当時の山県有朋陸軍卿は「軍人訓戒」を公布し、軍人の政治問題に関する意見の公表も禁止しました。

 

憲法は、「行政権」もあくまで国務大臣の輔弼(助言や進言)によって「天皇が自らおこなう」という原則に立ち、第55条に国務大臣の輔弼責任を明記していますが、軍の「統帥権」がこれら国務大臣の輔弼の範囲内にあるかどうかは曖昧でした。

 

さらに驚くなかれ、「大日本帝国憲法」には「内閣」そのものの規定がありません。第24話で紹介しましたように、当時の内閣制度は、憲法が公布される4年前の明治18年に「太政官達第69号」により制定されたものでした。「内閣」は、国務大臣が輔弼するための協議機関との地位を有するのみで、内閣総理大臣も天皇を輔弼する点においては他の国務大臣と同格、かつ国務大臣の任免権もありませんでした。

 

その点では、日本国憲法第65条に「行政権は内閣に属する」と明記され、内閣総理大臣による国務大臣の任免権も規定されている現在の内閣とは性格がかなり違います。歴史を振り返る時、ややもすると現在の判断(価値)基準で史実を分析・評価しがちですが、戦前は現在と真逆、“軍隊は憲法に明記されていたが、内閣は明記されていなかった”という事実は書き留めておきたいと思います。

 

メッケル少佐を招聘(しょうへい)

 

さて、明治初期は、徳川幕府時代からの縁で、陸軍はフランス式、海軍はイギリス式と「兵制」を統一していまし。しかし、「普仏戦争」の観戦武官としてプロシア軍側で従軍した経験を有する大山巌が、優秀なスタッフ14人を引き連れ、再び1年間の欧州列強を視察した結果、1885(明治18)年、陸軍の諸制度をフランス式からドイツ式に改めました。

 

そして、モルトケ元帥(「普仏戦争」時の参謀総長、電撃作戦によってプロシアの勝利を導いた)の秘蔵っ子メッケル参謀少佐を招聘、助言を得てそれまでの「鎮台」を、機動性の高い「師団」に改編しました。このメッケルが教えた兵術思想は、“寡をもって衆を制す”(少人数で大勢に勝利する)、つまり「弱者の戦法」と言われ、経済力の貧困な我が国の国情にマッチし、良くも悪くも日本陸軍の最適な兵術として定着して多大な影響を与えることになりました。“ビギナーズ・ラッキー”と言うべきかも知れませんが、その最初の成功例が「日清戦争」であり、「日露戦争」の勝利に続きます。

 

「日清戦争」の原因となった朝鮮半島情勢

 

それでは改めて、「日清戦争」が起きた当時の東アジア情勢を振り返ってみましょう。これまで繰り返し述べたように、19世紀後半の国際社会は、西洋列国が地球上の約85%を支配しており、それを脅威と感じていたのは清や朝鮮の李王朝も同じでした。しかしその対応は国によって違っていました。

 

アヘン戦争(1839〜42年)やアロー戦争(1857〜60年)の結果、領土の割譲や11港の開港などを認め、不平等条約を提携した清は、1860年頃から「洋務新政」(西洋に学ぶ近代化の試み)を合い言葉に近代化を推進しました。

 

しかし、日本が廃藩置県を断行し、近代的な国家を生まれ変わったのに比し、清は自国の伝統的な文化や制度を土台にしたため、近隣との宗藩関係(冊封体制)もそのまま残りました。それでも1890年代の初め頃には、中国経済は世界的に無視できない存在にまでなったといわれます。

 

朝鮮は、大院君(国王の実父)が院政として実権を持ち、「衛正斥邪(えいせいせきじゃ)運動」(邪教を廃して朱子学を墨守する運動、対外的には攘夷思想)を展開しました。そして、実際にフランス極東艦隊やアメリカ艦隊を退け、旧来の鎖国と攘夷を続けました。一方、開国して近代化を推進しようとする「開化派」も台頭してきました。

 

我が国にとって最大の脅威は、不凍港を求めて南下しつつあるロシアでしたが、1891(明治24)年にシベリア鉄道の建設に着手したことからその脅威は差し迫っていました。こうして、ロシアが朝鮮半島に及ぶ前に、「朝鮮が中立国として外国に支配されない自衛力を保持する近代国家になる」ことが日本の安全にとっても死活問題であるとの認識が強まったのでした。

 

 

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

(平成31年(2019年)2月28日配信)



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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