「第1次世界大戦」の歴史的意義

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はじめに

 

7月8日、保守の論客だった竹村健一氏が89歳で亡くなられました。「日本の常識は世界の非常識」など数々の流行語を生み出した竹村氏を何度もテレビで拝見し、その話し方の“小気味よさ”に感動したことを覚えております。

 

最近、ある人が書いた“竹村氏の遺訓”なるものを読ませていただき、改めて我が国が、古くは高坂正堯氏に始まり、渡辺昇一氏、岡崎久彦氏、このたびの竹村氏のような論客を相次いで失ってしまった“重大さ”に思いが至り、心が痛みました。

 

先週末、参議院選挙が終了しました。その結果については、現在の国民の“賢い選択“によるものなのでとやかく言うことは避けたいと思いますが、竹村氏の“遺訓”に次のような文章がありましたので、読まれていない方のために紹介しておきたいと思います。

 

「偉大な政治家は国民のいい部分を引き出す」
「凡庸な政治家は国民の悪い部分を引き出す」

 

 です。当選された政治家の皆様には、何としても日本国民の“いい部分”を引き出していただくよう最善を尽くしてもらいたいと願っております。

 

「第1次世界大戦」の歴史的意義

 

昨年の11月11日は、第1次世界大戦の「休戦協定」からちょうど100年にあたり、パリで記念式典が開催されて各国首脳が出席しました。その式典で、フランスのマクロン大統領が「ナショナリズムの台頭が再び平和を脅かそうとしている」と演説し、具体的な名指しは避けてもそれが何を意味するかが明白であったことから、物議を醸し出しました。

 

ヨーロッパ人にとっては、戦闘員の死者約1千万人、非戦闘員の死者約1千3百万人の犠牲者を出した第1世界大戦は第2次世界大戦よりも歴史的意義が大きかったといわれますが、本メルマガでは、我が国の有識者たちが“第1次世界大戦をどのように分析しているのか”に絞って歴史的意義を考えてみたいと思います。

 

 前述の高坂正堯元京都大学教授は、最近その復古版が話題になっている名著『国際政治』の中で、「第1次世界大戦が発生する前までは、欧州列国は“勢力均衡”原則が外交を指導する中心的な原則だった。各国は“勢力均衡”を口にしながら、自国に有利な“均衡”を獲得しようとした。第1次世界大戦はその“勢力均衡”の不完全さが集積して起こった」旨の論旨を展開し、その意義を分析しています。

 

 同じく京都大学名誉教授の佐伯啓思氏は、著書『20世紀とは何だったのか』の中で、「20世紀とは、“世界史”が表舞台に出てきた時代である」として、「20世紀はもはやヨーロッパを中心に世界を語ることができなくなった。ヨーロッパの理念や使命感として推進してきた帝国主義の矛盾が行き着くところまで行き、ヨーロッパ列強の植民地をめぐる争いが最終的にたどり着いたのが第1次世界大戦だった」旨の意義を分析しています。

 

 もう少し続けましょう。日本の場合は、その“勢力均衡”の一環だった「日英同盟」に基づく参戦でしたが、モンロー主義の中立国・米国の参戦は“異例”でした。参戦に至る表向きの直接的理由は、“ドイツの無制限攻撃によってイギリスの客船が攻撃され、犠牲者に100人を超すアメリカ人が含まれていた”ことにありましたが、ウィルソン大統領は、「世界の民主主義を守るためにアメリカは参戦する」と国民に訴え、支持を得ました。

 

言葉を代えれば、「危険な政府を倒し、世界を民主化するためにアメリカは軍事力を独自に行使できる」というロジックが確立したのでした。佐伯氏は「米国のこの論理は、19世紀の帝国主義の時代の論理と基本的には同じだが、ヨーロッパ内の“勢力均衡”に代わり、超大国・アメリカが世界秩序を保持すべきとする“覇権安定性”が完成した」と分析しています。

 

この理論は、第2次世界大戦においてはアメリカなど戦勝国側の「デモクラシー対ファシズム(正義と悪)の戦い」との主張につながり、現在、トランプ大統領の「アメリカン・ファースト」が目指す“目的”にもつながっていると思うのです。

 

その意味では、マクロン大統領の発言は、歴史の中では失敗だった欧州型の“勢力均衡”に依然として執着しているとの見方もできるのではないでしょうか。もちろん、違った見方もあるでしょうが、大事なことは“世界秩序を保持して平和を維持するためにより有効な体制は何か?”ということに尽きるものと考えます。

 

改めて振り返りますと、ボスニアで発生した「サラエボ事件」がこのように人類社会の“歩み”そのものを一挙に変えたばかりか、20世紀そして現代の“序曲”になっていたということ、そして講和条約の結末が次の大惨事を引き起こす“時限爆弾”としてすでに時を刻み始めていたということを当時の誰が認知し得たでしょうか。 

 

「国際連盟」の誕生

 

さて、「ヴェルサイユ条約」発行日の1920(大正9年)1月10日に「国際連盟」が発足しました。ウィルソン大統領が提唱した「14カ条の平和原則」の第14条「国際平和機構の設立」に基づき、パリ会議において戦勝国に承認されたものでした。

 

「国際連盟」の原加盟国は42カ国でしたが、前回取り上げましたようにアメリカは議会や世論の反対で不参加、ソ連やドイツも参加を容認されないなどその基盤は当初から十分なものでありませんでした(ドイツは1926年、ソ連は34年にそれぞれ加盟しました)。
ウィルソン大統領は「世界大戦の悲劇を防止するためにもアメリカが国際的に孤立するのは許されない。集団的安全保障の枠組みに参加するのは米国の責任であり、崇高な義務だ」と説きました。しかし、議会や国民の支持を得ることができず、やがて失意のうちに世を去りました。そして、加盟反対を掲げた共和党のハーディング大統領が誕生し、加盟の道は絶たれたのでした。

 

佐伯氏が説かれたようなアメリカの論理は、この時点では未完成でした。その後の歴史の中で、大統領たちが形を変え、品を変えて国民を説得し、いわゆる、国民の“いい部分”を引き出す努力を継続したと考えるべきなのでしょう。

 

日本は、イギリス、フランス、イタリアとともに常任理事国となりましたが、欧州中心の加盟国に加え、「全会一致制」や「武力制裁」の手段もないなど、「国際連盟」は国際協調や世界平和の確立という目的達成のためにかなり不備がありました。

 

日本はまた、(予定通り)「ヴェルサイユ条約」によって「国際連盟」から南洋諸島(北マリアナ諸島・パラオ・マーシャル諸島・ミクロネシア連邦などに相当)の委任統治も託されました。

 

 まさに、戦勝国・日本の絶頂期だったとも言えますが、南洋諸島は、当時、アメリカの植民地下にあったフィリピンとハワイの間に日本が“割って入る”ような格好となり、アメリカの対日警戒感をますます増大させることにつながっていきます。

 

今回は、ちょっと立ち止まって歴史を“鳥瞰”してみました。第1次世界大戦の頃から現在社会との“つながり”がより密接になります。有名な「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(ビスマルク)という言葉があります、人類の本質はそう変わらないので、歴史には人類の英知が詰まっているはずなのですが、“歴史を学び、未来に活かす”ことがいかに“言うは易く行うは難し”なのか、つまり、人類はなぜ賢者になれないのか、などについても引き続き探求して行こうと考えています。次回は、“歴史的岐路”となった「ワシントン会議」を取り上げましょう。

 

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

(令和元年(2019年)7月25日配信)

 

 

お知らせ

 

「メルマガ軍事情報」でエンリケさんが再三紹介された『漫画クラウゼヴィッツと戦争論』を私も読ませていただきました。陸上自衛隊の元将官、つまり軍事の専門家の“端くれ”としての立場で私も本書について少し解説したいと思います。

 

陸上自衛隊の幹部は(全員ではありませんが)、在任中に不滅の戦略論といわれる中国の古典『孫子』やクラウゼヴィッツの『戦争論』を学ぶ機会があります。
『孫子』は、漢詩調に書かれているせいもあって、わりと日本人には理解しやすいのですが、『戦争論』は、クラウゼヴィッツの理論の背景が欧州戦場であるため、なかなかイメージアップできないばかりか、理論そのものが難解で、翻訳の問題もあってか、軍事のプロの自衛官でさえ困難を極めます。

 

私の場合は、防衛大学校の学生時代を含めると3回、真剣に学んだ経験があります。当然ながら、「軍事とは何か」をまったく知らない学生時代は、「ナポレオン戦争」の戦史を学ぶ延長で『戦争論』の“さわり”を学んだ記憶がある程度です。そして自衛隊に入り、中堅幹部の3佐時代に1度、さらに1佐になりかけた頃、再度、集中して学ぶ機会がありました。

 

クラウゼヴィッツが何を言いたいかをある程度理解し、“目から鱗”を自覚したのは、3回目、つまり20年あまり、部隊や陸上幕僚監部などで指揮官や幕僚としての実務を経験した後でした。

 

さて、本書の作・画は元1佐の石原(米倉)ヒロアキ氏によるものです。石原氏は、漫画については自衛隊に入隊する前の大学時代にすでに「赤塚不二夫賞」の準入選に選ばれるほどの実力を持っておられたようです。しかし、「好きな戦争漫画を描くには軍事を知らなければならない」と自衛官を志し、定年まで全うした後、再び漫画家の道を歩まれている信念の持ち主です。

 

その経験と信念からでしょうか、単に『戦争論』を漫画で解説するだけに留まらず、軍人クラウゼヴィッツに焦点をあて、その戦歴を追体験しながら、クラウゼヴィッツが個々の理論をいかに発想したか、その背景を含めてとてもわかりやすく可視化しているところに本書の特色があります。

 

その石原氏が2年間の情熱を注いで完成した本書にはまた、随所に軍事専門家ならではの“目(切り口)”を伺い知ることができます。何度も悪戦苦闘した経験を有する私にとりましても、“新たな発見”がたくさんありました。

 

本書は、『戦争論』の研究者・翻訳者として最も定評のある清水多吉氏が監修されていることもあって、これまで『戦争論』を学んだ経験のない読者にとっては「入門書」になるでしょうし、すでに学んだ読者にとっては、背景などが可視化されていることによって、難解な理論を改めて読み解くうえで貴重な一冊になると確信いたします。しかも、漫画ですから気軽に読むことができ、内容が瞬間に“頭に焼き付く”というメリットもあります。

 

「平和」を唱えるだけで、「戦争」と聞くだけで“拒否反応”を示す多くの日本人、とくに政治家や有識者ら我が国を牽引すべきリーダーたちに「軍事」を少しでも理解していただくためにも本書がベストセラーになることを祈って止みません。一人でも多くの方にお読みいただくようお薦めします。

 

 

漫画 クラウゼヴィッツと戦争論
 石原ヒロアキ(作) 清水多吉(監修)
 並木書房
 2019年6月27日発行
 http://okigunnji.com/url/51/

 

 

 

お知らせその2

 

新元号が「令和」に決まった4月1日、『自衛官が語る災害派遣の記録─被災者に寄り添う支援』(桜林美佐監修/自衛隊家族会編/並木書房発行)が発売となりました。本「メルマガ軍事情報」で毎週月曜日にメルマガを発信されている、本書監修者の桜林美佐氏がすでに4月1日発刊のメルマガで紹介されましたが、私も“仕掛け人”の一人として皆様に本書を紹介しておきたいと思います。

 

 本書は、主に自衛隊員の家族によって構成される自衛隊家族会の機関紙『おやばと』に3年以上にわたって連載された「回想 自衛隊の災害派遣」をまとめたものです。ここには過去50年あまりに実施された陸海空自衛隊の主な災害派遣と、それに従事した指揮官・幕僚・隊員たち37人の証言が収められています。昭和26年のルース台風で当時の警察予備隊が初の災害派遣をして以来、自衛隊はこれまでに4万件を超える災害派遣を実施してきました。激甚災害時の人命救助や復旧支援をはじめ、離島での救急患者の輸送、不発弾処理、水難救助、医療や防疫に至るまでその活動は広範多岐にわたります。

 

しかし、 “災害派遣の「現場」で何が起きているか”について、寡黙な自衛官たちはこれまで多くを語ることはありませんでした。本書には、「阪神・淡路大震災」において、自衛官たちが不眠不休で身を賭して人命救助にあたっていた時に「神戸の街に戦闘服は似合わない」と発言されたことや、厚生省から被災者の入浴支援は「公衆衛生法に反する」と指摘されたとの証言、そして、被災地でご遺体を搬送したら、警察から「検視前に動かすと公務執行妨害になる」と言われたこととか、瓦礫の除去も私有財産を勝手に処分する問題があるなどの証言もあります。さらに、「地下鉄サリン事件」では、自ら防毒マスクを外して安全を確認した化学防護隊長の証言など、脚色も誇張もないリアルな事実が記録されています。

 

自衛隊の災害派遣は常に「被災者のために」が“合い言葉”のようになっています。桜林氏がメルマガでわざわざ取り上げてくれましたが、かくいう私も「有珠山噴火時の災害派遣」の体験談、とくに被災者の欲求は状況によって変化し、「被災者に寄り添う支援」がいかに大変かについて書かせて頂きました。

 

本書には、昭和末期の災害派遣も少し含まれていますが、ほぼ平成時代に生じた災害派遣の記録となっており、平成時代の大きな災害を振り返るための資料価値もあると考えます。すでに店頭に並んでおり、アマゾンなどで購入も可能ですので、自衛隊の災害派遣にご興味のある方は、ぜひご一読いただきますようお願い申し上げます(本書の問い合わせなどは宗像宛でお願い致します)。

 

 

『自衛官が語る災害派遣の記録─被災者に寄り添う支援』
桜林美佐監修/自衛隊家族会編
並木書房発行
http://okigunnji.com/url/28/

 

 



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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