“波乱の幕開け”となった「昭和時代」(前段)

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はじめに(「昭和時代」をいかに振り返るか)

 

偶然にも第50回目の今回から「昭和時代」に突入します。本メルマガの第1回目に本メルマガ発信のきっかけを書きましたが、真の目的は、戦後、歪めて教えられ、伝えられ、そして理解してきた「激動の昭和時代」を振り返り、本当は何が起きていたのか、つまり“史実”は何だったのかを解明することにありました。

 

これまで、昭和時代に至る歴史を辿り、歴史の縦と横の“繋がり”を明らかにしつつ、我が国、なかでも時代時代の国の“舵取り”を行なった先人たちにとって、“国内外の「風景」がどのように見えていたのか”について賢明な読者の皆様とともに探ってきました。その意味では、50回目にしてようやくそのスタートラインに立ったと考えています。

 

何度も言いますが、歴史の見方は一様ではありません。そして時代とともにその解釈も変わります。教育界では、今頃になって「江戸時代に鎖国はなかった」と長い間の“定説”を覆しているように、“正しい歴史の理解”にはどうしても時間がかかります。

 

周辺国との間の歴史解釈においても、中国とは「相互理解の促進」を目的とした「日中歴史共同研究」を両国の歴史学者によって3年間にわたり繰り広げられたようですが、中国側の「日本は侵略戦争の加害者、中国は被害者」とする基本的視点を到底覆すことはできず、結果として「歴史の共有」は叶わなかったと日本側の歴史家たちが書籍にまとめています。また、お隣・韓国との歴史認識の較差については取り上げるまでもなく、永遠に埋まらないでしょう。

 

ただ幸いにして、戦後70年余りを過ぎた現在、長い間、ベールに包まれていた外交文書などが公開され始めたことから、内外の心ある歴史家などによって、戦前の“史実”が逐次つまびらかにされつつあります。それでも「敗戦の代償」とも言うべきか、一度容認した「歴史観」を修正するのは容易ではなく、政府の公式見解や言論界の主な考えは、依然としてかつてのまま根強く残っていることも事実です。

 

これらから、本メルマガにおいては、70年あまり過ぎて明らかになった事実を含め、これまで同様、日本史と世界史に“横串”を入れつつ、できるだけ“史実”に忠実に時代を追って振り返り、そこから先は「読者に考えていただく」との立場に立って歩を進めたいと思います。

 

さて、本日8月15日は、“我が国の”「終戦記念日」ですが、「昭和時代」の焦点は何と言っても「大東亜戦争」であることに異論はないでしょう。よって、前段は、「戦争に至るプロセス」、なかでも“なぜ対米戦争への道を進まざるを得なかったのか?”について、中段は、「大東亜戦争の真相」の解明を追究しつつ、後段は、「戦後処理とその影響」などを主に振り返ってみようと考えています。

 

ここで、“我が国の”と断ったことには訳があります。私たち日本人は、“ポツダム宣言をラジオ放送で国民に知らせた”8月15日を「終戦記念日」として、関係国すべてが大東亜戦争の“終戦”をそのように認識していると考えている節がありますが、実は、8月15日を「終戦記念日」としているのは我が国だけなのです。

 

戦勝国側の米国、英国、フランス、カナダなどは、我が国が東京湾上で「降伏文書」に調印した9月2日を「対日戦勝記念日」と定め、旧ソ連、それに中国と中華民国は、調印の翌日に「対日戦勝祝賀会」を行なったことなどに由来して9月3日を一般的な意味で「終戦記念日」としています。ロシアは、2010年に9月2日に変更しました。連合国と同じ日にすることによって、連合国側で戦ったことをアピールして、対日参戦や北方領土の実効支配を正当化する意図もあるといわれています。

 

このように、「終戦記念日」でさえ各国の“思惑”が含まれていることを私たちはしっかり認識する必要があるのです。歴史教育ではなぜか「昭和時代」にしっかり踏み込まず、それ故に今なお「否定的な見方」や「歴史に関心がない」人たちが多いと考えますが、70年も過ぎた現在、私たち日本人は、そろそろ「昭和時代の史実」と正面から向き合い、ことさら声に出さなくとも「正しい歴史」を知る時期に来ているのはないでしょうか。本メルマがその一助になればと望外の喜びです。

 

なお、第50回目の今回以降は、一つ一つの事象について深くご理解いただきたいこともあって、テーマを絞り、字数も少なくすることにします。それでは、「昭和時代」の開幕です。

 

「昭和金融恐慌」の発生

 

西暦1926年が「昭和」の始まりですが、昭和元年はわずかに7日間しかなく、すぐに昭和2年を迎えます(これは偶然なのでしょうが、最後の昭和64年も7日間しかありません)。

 

我が国は、まるで「激動の昭和」を暗示するかのように、経済情勢が大混乱のなか、新元号を迎えたのでした。すでに説明しましたように、日本経済は、1920(大正9)年頃から第1次世界大戦後の不況に陥ったのに続き、1923(大正12)年に発生した「関東大震災」のダメージによりますます悪化し、社会全般に金融不安が生じていました。

 

こうしたなか、当時の大蔵大臣の失言によって金融不安が一挙に表面化し、1927(昭和2)年3月、金融恐慌が発生しました(「昭和金融恐慌」と呼ばれます)。

 

「昭和」をいきなり経済情勢から始めたのには訳があります。一般の歴史ではとかく無視されがちな経済情勢ですが、歴史を探求しているうちに、“対米戦争への道を進まざるを得なかった”背景に経済的要因がかなりの部分を占めるとの“史実”に気づきました。

 

そのような時、「ジオ・エコノミクス(地政経済学)」、つまり「経済をひとつの手段として相手国をコントロールする戦略を研究する学問」に出会いました。その結果、経済情勢を抜きに「昭和の歩み」を語ることはできないと確信するようになったのです。

 

本メルマガにおいては、「ジオ・エコノミクス」の細部に触れる余裕はありませんが、その考えを活用しつつ、我が国の命運を左右した経済情勢を織り交ぜて「昭和」を振り返ってみたいと考えます。
金融恐慌を続けましょう。この金融恐慌の影響で憲政会の若槻内閣が総辞職し、政友会の田中義一内閣が誕生しますが、田中内閣は、「支払い猶予令(モラトリアム)」を公布し、日本銀行による莫大な特別融資などによって金融恐慌を終息させます。

 

しかし、この金融恐慌によって、台湾銀行など37の銀行の休業をはじめ中小銀行が没落し、その反面、三菱・三井・住友・安田・第一の5大銀行に預金が集中して圧倒的優位を確立しました。こうして、金融恐慌の“置き土産”のように「財閥」が出来上がります(「財閥」は、終戦後GHQの指令によって解体されます)。

 

さて、「第2次世界大戦の発端はどこにあるか?」を探っていきますと、1929(昭和4)年のアメリカ発「世界恐慌」に行き着くと私は考えます。「関東大震災」やこの「昭和金融恐慌」で疲弊していた我が国は、この「世界恐慌」の“あおり”をまともに受けます。これらの細部については改めて取り上げましょう。

 

 

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

(令和元年(2019年)8月15日配信)

 

 

お知らせ

 

「メルマガ軍事情報」でエンリケさんが再三紹介された『漫画クラウゼヴィッツと戦争論』を私も読ませていただきました。陸上自衛隊の元将官、つまり軍事の専門家の“端くれ”としての立場で私も本書について少し解説したいと思います。

 

陸上自衛隊の幹部は(全員ではありませんが)、在任中に不滅の戦略論といわれる中国の古典『孫子』やクラウゼヴィッツの『戦争論』を学ぶ機会があります。
『孫子』は、漢詩調に書かれているせいもあって、わりと日本人には理解しやすいのですが、『戦争論』は、クラウゼヴィッツの理論の背景が欧州戦場であるため、なかなかイメージアップできないばかりか、理論そのものが難解で、翻訳の問題もあってか、軍事のプロの自衛官でさえ困難を極めます。

 

私の場合は、防衛大学校の学生時代を含めると3回、真剣に学んだ経験があります。当然ながら、「軍事とは何か」をまったく知らない学生時代は、「ナポレオン戦争」の戦史を学ぶ延長で『戦争論』の“さわり”を学んだ記憶がある程度です。そして自衛隊に入り、中堅幹部の3佐時代に1度、さらに1佐になりかけた頃、再度、集中して学ぶ機会がありました。

 

クラウゼヴィッツが何を言いたいかをある程度理解し、“目から鱗”を自覚したのは、3回目、つまり20年あまり、部隊や陸上幕僚監部などで指揮官や幕僚としての実務を経験した後でした。

 

さて、本書の作・画は元1佐の石原(米倉)ヒロアキ氏によるものです。石原氏は、漫画については自衛隊に入隊する前の大学時代にすでに「赤塚不二夫賞」の準入選に選ばれるほどの実力を持っておられたようです。しかし、「好きな戦争漫画を描くには軍事を知らなければならない」と自衛官を志し、定年まで全うした後、再び漫画家の道を歩まれている信念の持ち主です。

 

その経験と信念からでしょうか、単に『戦争論』を漫画で解説するだけに留まらず、軍人クラウゼヴィッツに焦点をあて、その戦歴を追体験しながら、クラウゼヴィッツが個々の理論をいかに発想したか、その背景を含めてとてもわかりやすく可視化しているところに本書の特色があります。

 

その石原氏が2年間の情熱を注いで完成した本書にはまた、随所に軍事専門家ならではの“目(切り口)”を伺い知ることができます。何度も悪戦苦闘した経験を有する私にとりましても、“新たな発見”がたくさんありました。

 

本書は、『戦争論』の研究者・翻訳者として最も定評のある清水多吉氏が監修されていることもあって、これまで『戦争論』を学んだ経験のない読者にとっては「入門書」になるでしょうし、すでに学んだ読者にとっては、背景などが可視化されていることによって、難解な理論を改めて読み解くうえで貴重な一冊になると確信いたします。しかも、漫画ですから気軽に読むことができ、内容が瞬間に“頭に焼き付く”というメリットもあります。

 

「平和」を唱えるだけで、「戦争」と聞くだけで“拒否反応”を示す多くの日本人、とくに政治家や有識者ら我が国を牽引すべきリーダーたちに「軍事」を少しでも理解していただくためにも本書がベストセラーになることを祈って止みません。一人でも多くの方にお読みいただくようお薦めします。

 

 

漫画 クラウゼヴィッツと戦争論
 石原ヒロアキ(作) 清水多吉(監修)
 並木書房
 2019年6月27日発行
 http://okigunnji.com/url/51/

 

 

 

お知らせその2

 

新元号が「令和」に決まった4月1日、『自衛官が語る災害派遣の記録─被災者に寄り添う支援』(桜林美佐監修/自衛隊家族会編/並木書房発行)が発売となりました。本「メルマガ軍事情報」で毎週月曜日にメルマガを発信されている、本書監修者の桜林美佐氏がすでに4月1日発刊のメルマガで紹介されましたが、私も“仕掛け人”の一人として皆様に本書を紹介しておきたいと思います。

 

 本書は、主に自衛隊員の家族によって構成される自衛隊家族会の機関紙『おやばと』に3年以上にわたって連載された「回想 自衛隊の災害派遣」をまとめたものです。ここには過去50年あまりに実施された陸海空自衛隊の主な災害派遣と、それに従事した指揮官・幕僚・隊員たち37人の証言が収められています。昭和26年のルース台風で当時の警察予備隊が初の災害派遣をして以来、自衛隊はこれまでに4万件を超える災害派遣を実施してきました。激甚災害時の人命救助や復旧支援をはじめ、離島での救急患者の輸送、不発弾処理、水難救助、医療や防疫に至るまでその活動は広範多岐にわたります。

 

しかし、 “災害派遣の「現場」で何が起きているか”について、寡黙な自衛官たちはこれまで多くを語ることはありませんでした。本書には、「阪神・淡路大震災」において、自衛官たちが不眠不休で身を賭して人命救助にあたっていた時に「神戸の街に戦闘服は似合わない」と発言されたことや、厚生省から被災者の入浴支援は「公衆衛生法に反する」と指摘されたとの証言、そして、被災地でご遺体を搬送したら、警察から「検視前に動かすと公務執行妨害になる」と言われたこととか、瓦礫の除去も私有財産を勝手に処分する問題があるなどの証言もあります。さらに、「地下鉄サリン事件」では、自ら防毒マスクを外して安全を確認した化学防護隊長の証言など、脚色も誇張もないリアルな事実が記録されています。

 

自衛隊の災害派遣は常に「被災者のために」が“合い言葉”のようになっています。桜林氏がメルマガでわざわざ取り上げてくれましたが、かくいう私も「有珠山噴火時の災害派遣」の体験談、とくに被災者の欲求は状況によって変化し、「被災者に寄り添う支援」がいかに大変かについて書かせて頂きました。

 

本書には、昭和末期の災害派遣も少し含まれていますが、ほぼ平成時代に生じた災害派遣の記録となっており、平成時代の大きな災害を振り返るための資料価値もあると考えます。すでに店頭に並んでおり、アマゾンなどで購入も可能ですので、自衛隊の災害派遣にご興味のある方は、ぜひご一読いただきますようお願い申し上げます(本書の問い合わせなどは宗像宛でお願い致します)。

 

 

『自衛官が語る災害派遣の記録─被災者に寄り添う支援』
桜林美佐監修/自衛隊家族会編
並木書房発行
http://okigunnji.com/url/28/

 

 



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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