昭和陸軍の台頭

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はじめに(“反日ばかりでない”韓国事情)

 

 今回のテーマとは全く関係ないのですが、先日、「韓国人観光客激変!」の記事を目にしました。本メルマガでもしばしば韓国事情に触れていますが、今回は、“韓国は反日ばかりでない”ことを示す話題を3点、取り上げてみましょう。

 

 いちばん古いものは、昨年末です。元徴用工ら約1100人が韓国政府を提訴した問題です。原告側は、1965年の「日韓請求権協定」によって日本が負担した経済援助をもとに、「韓国政府が支払うべき」として1人あたり日本円で1000万円、総額110億円の支払いを韓国政府に求めるとしています。

 

「日韓請求権協定」には、日本が韓国政府に5億ドル(現在の相場で約540億円)の経済支援を行なうのと引き換えに、補償問題は「完全かつ最終的に解決された」と明記されています。韓国政府は、5億ドルの一部を元徴用工らに支給したものの、その大部分をインフラ事業に使ってしまったのです。

 

その国交正常化交渉においては、韓国側は「補償は、国内措置として私たちの手で支給する。日本側が支給する必要はない」と主張していたことも判明しております。また、2005年、廬武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、「強制動員犠牲者の救済問題は韓国政府に道義的責任がある」として、死傷者に追加支援を決めたという事実もあります。しかも、この政府見解をまとめたのが、当時、民情首席秘書官の職にあった文大統領や首相であったイ・ヘチャン氏(現在、与党代表)だったというから驚きです。

 

昨年10月、その陣容からして公正・公平な司法権を行使しているか疑わしい最高裁は、日本企業に賠償を命じる判決を下しました。それに対して、安倍政権が「韓国は約束を守るべき」と一歩も譲歩する姿勢を示していないのはこのような事実を踏まえているからだと考えます。

 

文大統領にとって、元徴用工らの訴えは想定外だったといわれていますが、この秋にも判決が出るといわれます。最近、さまざまな疑惑の中で就任したチョ・グク法相人事と何か関係があるのではないか、と“うがった見方”をしてしまいますが、検察は今なお、新法相本人を“容疑者”とみて捜査しているとのことです。これら一連の“構図”、我が国の常識ではとても理解することはできないようです。

 

次に、韓国で現在、ベストセラーになっている『反日種族主義』という書籍に関する話題です。本書は、元ソウル大学教授6人が執筆者した書籍で、植民地時代の朝鮮半島で「日本による土地やコメの収奪はなかった」「従軍慰安婦の強制連行はなかった」とほぼ“史実”を主張し、韓国で物議を醸しているようです。反日一辺倒のように見える韓国で、このような“勇気ある良識派”が存在し、しかも書籍がベストセラーになっているのは救いです。

 

最近、話題になっているのは、本書に対する韓国内の批判だけなく、北朝鮮が食ってかかって批判していることです。日朝の正常化に向けて、過去の“清算”をテーマにしようとする北朝鮮にとって、現時点で“史実”を暴露されると“価値”を損ねてしまうとの危機感からだとの記事は解説しています。いろいろな見方があるものです。

 

 最後に、“韓国政府高官の覚悟の告発”として「文政権では韓国が地球上から消える」との記事が『文芸春秋10月号』に掲載されている話題です。詳しい内容は省略しますが、未来志向のない文大統領に未来志向の日韓関係を築く意志はないとして、「来年春の総選挙で再び与党(共に民主党、国民党)が勝利すれば、韓国は地球上から消える」と警告しています。文大統領がめざす南北統一が実現すると、韓国が北朝鮮に同化されてしまい、やがては韓国そのものが消え去ることを懸念しているのです。

 

総じて、反日を貫き北朝鮮との統一を標榜する文政権の“横暴”に対して、これまで大人しくいた“良識派”の人たちが勇気をしぼって声を上げ始めたようです。まさに“韓国は反日ばかりではない”のは明白なので、今後の展開を注目したいと思っています。

 

しかし、冷静に考えますと、このような批判の声が上がるだけでも“韓国はまだまとも”と考えなければならないのかも知れません。北朝鮮においては、金正恩批判などが判明すれば、即、処刑されるのは明らかです。そのような北朝鮮と統一したら、どのような統一国家になるのか、それを文大統領がどのようにイメージしているのか、一度じっくり聞いてみたい衝動に駆られます。

 

万が一、統一した暁に、文大統領が処刑者第1号にならないことを祈るばかりです。それよりも可能性が高いのは、これまでの大統領のような“悲惨な末路”でしょうか。他人事ながら心配になります。今回も「はじめに」が長くなりました。本題を急ぎます。

 

軍人の興隆

 

我が国の戦前の歴史を語る時、どうしても軍人たちの“暴走”を抜きにしては語れないと誰もが考えます。「ポツダム宣言」においても「本戦争は、無分別な打算をもったわがままな軍国主義者たちが日本国民を騙して世界征服の意図をもって行ったもの」と定義され、「その勢力を永久に除去する」旨の宣言を我が国は受け入れのでした。

 

必ずしも軍国主義者イコール軍人ではないですが、昭和時代の軍人の台頭の実態はどうだったのでしょうか。軍人、特に陸軍が歴史の表舞台に登場するのは「満州事変」の頃からです。「満州事変」勃発後の展開を振り返る前に昭和陸軍について少し触れておこうと思います。

 

軍人の台頭は、大日本帝国憲法の「統帥権の独立」にその根源があることは明白ですが、本来、「統帥権の独立」は、“軍の政治的独立を確保し、政治関与を防ぐためにつくられた制度”でありました。しかし、時を経るごとに軍の政治関与・介入を容認する制度へと変貌していったのはなぜだったのでしょうか。

 

ただ、ここに至る“道行き”は長く、かつ複雑でさまざまな要因があります。詳細は『逆説の軍隊』(戸部良一著)や『昭和陸軍の軌跡』(川田稔著)などに任せることにしますが、概要は次のとおりと考えます。

 

すでに触れましたように、明治時代後期から大正時代においては、政治の主導権をめぐって政党政治と藩閥政治が激しく対立し、藩閥政治は長州出身の山県有朋が強い影響力を保持してきました。

 

やがてその山県も死去し、「大正デモクラシー」による政党政治が興隆しますが、党利党略の抗争や相次ぐ不祥事などから国民の信頼を失います。一方、第1次世界大戦後の陸海軍の軍縮の結果、軍人たちは不安のドン底に陥り、軍人に対する国民の目も憎悪から侮辱に大きく変わっていったといわれます。同時に、「世界恐慌」などの“あおり”を受け、国民生活もますます疲弊していきました。

 

陸軍の派閥結成

 

こうした状況を踏まえ、危機意識から血気にはやる中堅将校らが主導権の確保をめざして派閥を作り始めます。まず、山県有朋が贔屓した長州派閥の打破と人事刷新、総動員態勢の確立を目指し、大正12年、陸士16期を中心に「二葉会」が結成されます。「二葉会」は徹底して長州系を排除します。事実、大正11年から13年まで山口県出身の陸軍大学入校者は1人もおりませんでした。

 

昭和2年には、陸士22期の若手を中心に「木曜会」が組織されますが、会の議論の中で、「統帥権の独立だけでは消極的だ」として「国家的に活動する公正なる新閥を作り、それを通じて政治に影響力を行使すべき」との結論を得ます。永田鉄山、岡村泰次、東條英機らもこの議論に加わっており、この時点で、軍の政治関与・介入を容認する方向に歩みはじめたものと考えられます。

 

やがて、「二葉会」と「木曜会」が合流して「一夕会」が結成されます(昭和4年)。主要メンバーは、永田、岡村、東條に加え、小畑?四郎、河本大作、板垣征四郎、山下奉文、石原莞爾、牟田口廉也、武藤章などでした。こうして、「満州事変」前には、陸軍中央の主要ポストは一夕会員がほぼ掌握、中国に対して「軍事行動やむなし」として関東軍の計画を支持したのでした。

 

朝鮮軍越境問題

 

「満州事変」勃発後の展開を追ってみますと、事変の翌日の1931(昭和6)年9月19日午前、陸軍中央部に報が届き、陸軍省・参謀本部合同の省部首脳会議では「一同異議なし」で承諾し、その後の閣議では“事態不拡大”の方針が議決されます。参謀本部の一部は、関東軍の現状維持と満蒙問題の全面解決が認められなければクーデターの断行まで決意したといわれます。

 

やがて、朝鮮軍越境に対する軍と政府の対応が問題になります。参謀本部は、朝鮮軍に対して、当初は「奉勅命令」下達まで見合わせるよう指示します。天皇の勅裁を受けていない軍隊の国外派兵は統帥権千犯とみなされていたのです(当時は、朝鮮半島までは国内でした)。しかし、張学良軍の総兵力に比して関東軍があまりに劣勢であったため、「情勢が変化し、状況暇なき場合には閣議に諮らずして適宜善処する」ことを議決します。この時点で、参謀本部は統帥権千犯を容認した格好になります。

 

その後、林銑十郎朝鮮軍司令官は天皇の大命を待たず、独断で混成旅団を越境させ、関東軍の指揮下に入れました。これにより、「柳条湖事件」は“国際的な事変”へ拡大したのでした。林銑十郎はのちに首相にもなる人ですが、何とも不思議な性格の持ち主です。“下克上”といわれた昭和初期に下位の参謀たちから好まれた司令官の典型のような人で、石原莞爾などは「林なら猫にでも虎にでもなる。自由自在にできる」と評していたのでした。

 

越境後の閣議では、「すでに出動した以上はしかたがない」と出兵に異論を唱える閣僚はなく、朝鮮軍の満州出兵に関する経費の支出を決定、その後、天皇に奏上されて朝鮮軍の独断出兵は「事後承認」によって正式の派兵となりました。後戻りできない“悪弊”が出来上がった瞬間でした。

 

(以下次号)

 

 

(むなかた・ひさお)

 

 

(令和元年(2019年)9月26日配信)

 

 

お知らせ

 

「メルマガ軍事情報」でエンリケさんが再三紹介された『漫画クラウゼヴィッツと戦争論』を私も読ませていただきました。陸上自衛隊の元将官、つまり軍事の専門家の“端くれ”としての立場で私も本書について少し解説したいと思います。

 

陸上自衛隊の幹部は(全員ではありませんが)、在任中に不滅の戦略論といわれる中国の古典『孫子』やクラウゼヴィッツの『戦争論』を学ぶ機会があります。
『孫子』は、漢詩調に書かれているせいもあって、わりと日本人には理解しやすいのですが、『戦争論』は、クラウゼヴィッツの理論の背景が欧州戦場であるため、なかなかイメージアップできないばかりか、理論そのものが難解で、翻訳の問題もあってか、軍事のプロの自衛官でさえ困難を極めます。

 

私の場合は、防衛大学校の学生時代を含めると3回、真剣に学んだ経験があります。当然ながら、「軍事とは何か」をまったく知らない学生時代は、「ナポレオン戦争」の戦史を学ぶ延長で『戦争論』の“さわり”を学んだ記憶がある程度です。そして自衛隊に入り、中堅幹部の3佐時代に1度、さらに1佐になりかけた頃、再度、集中して学ぶ機会がありました。

 

クラウゼヴィッツが何を言いたいかをある程度理解し、“目から鱗”を自覚したのは、3回目、つまり20年あまり、部隊や陸上幕僚監部などで指揮官や幕僚としての実務を経験した後でした。

 

さて、本書の作・画は元1佐の石原(米倉)ヒロアキ氏によるものです。石原氏は、漫画については自衛隊に入隊する前の大学時代にすでに「赤塚不二夫賞」の準入選に選ばれるほどの実力を持っておられたようです。しかし、「好きな戦争漫画を描くには軍事を知らなければならない」と自衛官を志し、定年まで全うした後、再び漫画家の道を歩まれている信念の持ち主です。

 

その経験と信念からでしょうか、単に『戦争論』を漫画で解説するだけに留まらず、軍人クラウゼヴィッツに焦点をあて、その戦歴を追体験しながら、クラウゼヴィッツが個々の理論をいかに発想したか、その背景を含めてとてもわかりやすく可視化しているところに本書の特色があります。

 

その石原氏が2年間の情熱を注いで完成した本書にはまた、随所に軍事専門家ならではの“目(切り口)”を伺い知ることができます。何度も悪戦苦闘した経験を有する私にとりましても、“新たな発見”がたくさんありました。

 

本書は、『戦争論』の研究者・翻訳者として最も定評のある清水多吉氏が監修されていることもあって、これまで『戦争論』を学んだ経験のない読者にとっては「入門書」になるでしょうし、すでに学んだ読者にとっては、背景などが可視化されていることによって、難解な理論を改めて読み解くうえで貴重な一冊になると確信いたします。しかも、漫画ですから気軽に読むことができ、内容が瞬間に“頭に焼き付く”というメリットもあります。

 

「平和」を唱えるだけで、「戦争」と聞くだけで“拒否反応”を示す多くの日本人、とくに政治家や有識者ら我が国を牽引すべきリーダーたちに「軍事」を少しでも理解していただくためにも本書がベストセラーになることを祈って止みません。一人でも多くの方にお読みいただくようお薦めします。

 

 

漫画 クラウゼヴィッツと戦争論
 石原ヒロアキ(作) 清水多吉(監修)
 並木書房
 2019年6月27日発行
 http://okigunnji.com/url/51/

 

 

 

お知らせその2

 

新元号が「令和」に決まった4月1日、『自衛官が語る災害派遣の記録─被災者に寄り添う支援』(桜林美佐監修/自衛隊家族会編/並木書房発行)が発売となりました。本「メルマガ軍事情報」で毎週月曜日にメルマガを発信されている、本書監修者の桜林美佐氏がすでに4月1日発刊のメルマガで紹介されましたが、私も“仕掛け人”の一人として皆様に本書を紹介しておきたいと思います。

 

 本書は、主に自衛隊員の家族によって構成される自衛隊家族会の機関紙『おやばと』に3年以上にわたって連載された「回想 自衛隊の災害派遣」をまとめたものです。ここには過去50年あまりに実施された陸海空自衛隊の主な災害派遣と、それに従事した指揮官・幕僚・隊員たち37人の証言が収められています。昭和26年のルース台風で当時の警察予備隊が初の災害派遣をして以来、自衛隊はこれまでに4万件を超える災害派遣を実施してきました。激甚災害時の人命救助や復旧支援をはじめ、離島での救急患者の輸送、不発弾処理、水難救助、医療や防疫に至るまでその活動は広範多岐にわたります。

 

しかし、 “災害派遣の「現場」で何が起きているか”について、寡黙な自衛官たちはこれまで多くを語ることはありませんでした。本書には、「阪神・淡路大震災」において、自衛官たちが不眠不休で身を賭して人命救助にあたっていた時に「神戸の街に戦闘服は似合わない」と発言されたことや、厚生省から被災者の入浴支援は「公衆衛生法に反する」と指摘されたとの証言、そして、被災地でご遺体を搬送したら、警察から「検視前に動かすと公務執行妨害になる」と言われたこととか、瓦礫の除去も私有財産を勝手に処分する問題があるなどの証言もあります。さらに、「地下鉄サリン事件」では、自ら防毒マスクを外して安全を確認した化学防護隊長の証言など、脚色も誇張もないリアルな事実が記録されています。

 

自衛隊の災害派遣は常に「被災者のために」が“合い言葉”のようになっています。桜林氏がメルマガでわざわざ取り上げてくれましたが、かくいう私も「有珠山噴火時の災害派遣」の体験談、とくに被災者の欲求は状況によって変化し、「被災者に寄り添う支援」がいかに大変かについて書かせて頂きました。

 

本書には、昭和末期の災害派遣も少し含まれていますが、ほぼ平成時代に生じた災害派遣の記録となっており、平成時代の大きな災害を振り返るための資料価値もあると考えます。すでに店頭に並んでおり、アマゾンなどで購入も可能ですので、自衛隊の災害派遣にご興味のある方は、ぜひご一読いただきますようお願い申し上げます(本書の問い合わせなどは宗像宛でお願い致します)。

 

 

『自衛官が語る災害派遣の記録─被災者に寄り添う支援』
桜林美佐監修/自衛隊家族会編
並木書房発行
http://okigunnji.com/url/28/

 

 



 



著者略歴

宗像久男(むなかた ひさお)
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士課程卒。 陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。 2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿多数。


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「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「「満州事変」の拡大と国民の支持」 (令和元年(2019年)10月3日配信)です。
満州国建国と国際連盟脱退
「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「満州国建国と国際連盟脱退」 (令和元年(2019年)10月10日配信)です。
「二・二六事件」の背景と影響
「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「「二・二六事件」の背景と影響」 (令和元年(2019年)10月17日配信)です。
「支那事変」に至る日中情勢の変化
「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「「支那事変」に至る日中情勢の変化」 (令和元年(2019年)10月24日配信)です。
「盧溝橋事件」から「支那事変」へ
「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「「盧溝橋事件」から「支那事変」へ」 (令和元年(2019年)10月31日配信)です。
「支那事変」の拡大と「南京事件」
「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「「支那事変」の拡大と「南京事件」」 (令和元年(2019年)11月7日配信)です。
「支那事変」止まず、内陸へ拡大
「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「「支那事変」止まず、内陸へ拡大」 (令和元年(2019年)11月14日配信)です。
“歴史を動かした”ソ連の陰謀
「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「“歴史を動かした”ソ連の陰謀」 (令和元年(2019年)11月21日配信)です。
世界に拡散した「東亜新秩序」声明
「我が国の歴史を振り返る」のバックナンバー「世界に拡散した「東亜新秩序」声明」 (令和元年(2019年)11月28日配信)です。